「……ヤタ!」
キミたちの猛攻を受け、人の姿を保つことをやめた巨大な黒蛇。
身体中の傷から泥のような血が吹き出して地面に溜まっていくのを止めることもできないほど弱った、追放されし神の姿。
やがて、その巨体が最期の咆哮をあげて地面に崩れ落ちると、キミたちのうち守るに長けたオーヴァードたちの垣根の内側から、黄色の少女が制止を振り切ってその傍に駆け付けたのだった。
「お嬢様……」
ヤタがごぷりと吐き出した黒い泥を正面から受けて、それでも近づいていく。
「ねえ。あなた、きっと、方法を間違えたんだわ」
「でも楽しかった。一緒にいられたらって、思ってたのよ」
「……ほんとよ?」
ヤタがその声に答えることはなく、
その巨体は仄かに光を放ちながら消えゆく。
それこそが、キミたちの世界からかき集められてきたエネルギー。
キミたちの世界の欠片、そのものであった。
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戦いが終われば、ヴェスナーが約束通りキミたちの世界を復元していくだろう。
二度とキミたちの前にその姿を現すことはないが、
この春雲大社の巫女として振る舞う「少年」・ハルが代行者としてキミたちに力を貸していく。
ハルもまた、この世界に残り続けることを決めたオーヴァードの一人だ。
レネゲインの力で成長したキリンが正しく花開かせた世界で、
キミたちの勝ち取った新たな自由を謳歌するのはとても素敵な明日だろう。
「キミは、どうする?」
ハルの問いかけに帰りたいと答えたならば、目を閉じるように言われて、一秒、二秒。
三を数える頃には、元居た場所に。
目を開けた頃には、「存在しえなかった明日」に。
キミは立っていることだろう。
――昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。
それがキミたちの勝ち取った、大切な、かけがえのない日常であることを、
キリンが、ヴェスナーが、ハルが、
いや、
キミが出会ったたくさんのオーヴァードたちと、彼らとの絆が、知っている。
(完)
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